一太郎はなぜWordに負けたのか (その2)
この記事は、2004年6月に発行された『パソコン温故知新〜インターネット前夜編』という書籍に「一太郎の蹉跌」という題で掲載したものです。編集会社のご厚意により、ほぼそのまま(タイトルを変更しましたが)ここに再掲載します。
以下は、「その1」の一太郎Ver.4.3の話の続きの部分からです。
「その1」はこちらをご覧ください。
→ http://office-watching.com/blog/2007-10-15/35/
==その1から続く==
● ジャストウインドウとは何か?
先ほども触れたが、このときのジャストウインドウは、フォントやプリンタの環境を共有し、アプリケーションを切り替えるというランチャー機能程度のものだった。ジャストウインドウが、ウインドウシステムとしての良さを発揮するのは次のバージョンのジャストウインドウ2(JW2)からになる。
一太郎Ver.4が発売された時点で、ジャストウインドウに対応するソフトは一太郎ver.4のみであった。また、AAC構想では、ジャストウインドウと同時にVAF(Value Added Fanction)という機能をアドオンする仕組みも発表されていたが、こちらも構想が表明されているだけで対応アドインは用意されなかった。
そのためユーザーにとっては、一太郎を起動するまえにジャストウインドウを起動しなくてはならないという手間が増えただけだった。
しかも、複数の文書を編集する場合に、これまでなら単にウインドウを開くだけだったのが、こんどは一太郎をもう一つ起動しなくてはならなくなった。さらに、当時の狭い編集画面が、ウインドウ枠やタイトルを表示するためにますます狭くなる。というわけで、この時点でユーザーのメリットはほとんど無かった。
しかし、これらのマイナス面は、あまり取り上げられなかった。回収と交換の混乱が大きかったのが、逆に幸いしたのかもしれない。バタバタしている間に(その年の9月に)花子Ver.2が発売されてジャストウインドウに対応し、まがりなりにも一太郎と花子を切り替えて作業ができるようになった。これで、ようやくジャストウインドウが生きるようになったのである。
ジャストシステムは花子Ver.2というジャストウインドウ対応アプリケーションをリリースする一方で、機能を絞り軽量化した「一太郎dash」を発売した。こちらは、追加投資をしなくても良い、もうひとつの一太郎だ。一太郎Ver.4はあまりに先進的だったので、旧バージョンのユーザーからは「Ver.3.5が欲しい」という声が上がっていた。そういったこれまでのユーザーの要求に応えたのである。
●一太郎、日本で初めてのミリオンセラーソフトに
ジャストシステムは、次バージョンの「一太郎Ver.5」の発売には慎重だった。一つにはVer.4の発売時の教訓があったからだろう。そして、もう一つはWindowsの動きを見極める必要があったからだろう。
Ver.3までの一太郎は、毎年バージョンアップを繰り返した。そして、ジャストウインドウを搭載した一太郎Ver.4へは、2年でのバージョンアップだった。それに対して、次の一太郎Ver.5の発売は、実に4年後となるのである。
その4年間は、ハードウエアが一太郎に追いつくのに必要だった期間ともいえる。事実、数十万円したハードディスクの値段も下がり、NECの32ビットパソコンが普及して、一太郎Ver.4.3は、まさに押しも押されもせぬナンバーワンワープロソフトとして君臨するのである。
ユーザーは、パソコンを買えば、一太郎も買った。そして、一太郎を使うためにパソコンを買った。こうして、1991年11月には、一太郎シリーズの累計売上本数は100万本に達成した。
このときの記者会見の記事を見ると、浮川は、今後の方針としてWindowsよりもUNIX版やMacintosh版の開発を優先することを表明している。日本語版のWindows3.0が91年に発売されていたが、あまり評判が良くなかったからだろう。なにしろ「回復不可能なアプリケーションエラー」の多発だ。また、ハードウエア環境が追いついていないという面もあった。いわゆる「重い」のである。
しかし、こうした浮川の意向に反して、このあと一太郎はWindows上でMicrosoft Wordと争うことになる。しかし、その話に進むまえに、もう少し一太郎Ver.4について説明を加えておこう。
一太郎Ver.4
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■ 一太郎Ver.4は、AAC構想の下で、はじめてジャストウインドウに対応した製品だ。発売時にプログラム上のトラブルがあり、Ver4.1、Ver.4.2と無償交換を繰り返しVer.4.3で安定した。その後、このバージョンで一太郎はミリオンセラーを達成する。
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● 提案型ワープロソフト、一太郎
波乱のスタートとなった一太郎Ver.4だが、Ver.4.3で安定し、4年間にわたってナンバーワンワープロとして君臨することになる。一太郎Ver.4.3の売り上げは好調だった。しかし、実は、このときすでに一太郎は、のちに命取りになる病の種を宿していた。
ここまで読んだ読者は、ジャストウインドウのことを言っているのだと思うかもしれないが、そうではない。一太郎の内部に、その後の一太郎の方向を決定づける重要な機能が加わっていたのだ。
筆者は一太郎を外から見ている人間なので、ジャストシステム内部で明確な方向付けがなされたうえでおこなわれたのかどうかは分からない。もしかしたら、その当時は、誰も気づいていなかったのかもしれない。単なる思いつきで、遊び心で加えた機能なのかもしれない。しかし、ここで加えられたこの機能は、その後の一太郎を読み解く鍵となる。
その機能の名前は、「ランク」と「ビジョン」だ。
「ランク」は、段落にランク付けをおこない、優先順位をつけて管理する機能だ。「ビジョン」はキーワードをもとに段落をデータベース風に管理する機能だ。いずれも、言い方は悪いが、ユーザーの要求からかけ離れた付加機能である。これらの機能を搭載することで、「提案型のワープロソフト」としてアピールする一太郎ができあがる。これが、以降の一太郎の性格を決定し、機能拡大路線をひた走ることになる。
このあとのバージョンアップを追っていくと分かるのだが、一太郎は必ず新しい提案を盛り込んでくる。たとえば「自動入力補正機能JAC」「文書校正機能『修太』」「見る人に応じて画面を切り替える『ビュー』」「自動校正機能JUST MEDDLER」「変換時にデータベースを検索するAMET」「省入力機能」「ドキュメントナビ」「一太郎ワークシート」「推測変換機能」「連想変換機能」「ナレッジウインドウ」「シンキングバー」「一太郎メイク」……。
それらは、ユーザーの要求に応えるのではなく、逆に、ユーザーに呼びかけ、一太郎の側から要求してくる機能だ。このような発想が、徐々に一太郎を変えていく。Ver.3までの、徹底したユーザー重視の姿勢から、少しずつユーザー軽視へ、そしてユーザー無視へと変化していくのである。
==続く==
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