2007/10/18 木曜日

一太郎はなぜWordに負けたのか (その3)

Filed under: ワープロ, Microsoft Office, 一太郎 — matsui mikihiko @ 14:33:27

この記事は、2004年6月に発行された『パソコン温故知新〜インターネット前夜編』という書籍に「一太郎の蹉跌」という題で掲載したものです。編集会社のご厚意により、ほぼそのまま(タイトルを変更しましたが)ここに再掲載します。

以下は、1990年代始めごろの一太郎の話の続きです。

「その1」はこちらをご覧ください。
→ http://office-watching.com/blog/2007-10-15/35/

「その2」はこちらをご覧ください。
→ http://office-watching.com/blog/2007-10-17/36/

 

==その2から続く==

● JW2 対 Windows3.1 

長かった一太郎Ver.4.3の時代が終わり、一太郎Ver.5は1993年4月に発売された。ジャストウインドウはVer.2となり、JW2の略称で呼ばれた。JW2のもとで一太郎は「イメージ編集モード」によるWYSIWYGを実現していた。一太郎に続いて、10月には、JW2上で稼働する表計算ソフト「三四郎」を発売する。翌94年2月に、花子もVer.3でJW2に対応、さらに7月にデータベースソフト「五郎」、8月にメール&スケジューラとJW2対応アプリケーションを発売する。こうして94年夏にはJW2対応ソフトが出そろうことになる。

JW2は、画期的だった。一太郎や花子を使うためのウインドウシステムとしては、とても良くできていた。操作はマウスとアイコンによるGUIで可能だったし、マルチフォント(明朝とゴシックの2フォンとを同梱)と250ポイントまでのフォントサイズを使うことができた。アプリケーション間のカットアンドペーストはJW2のクリップボードを介しておこなうが、このクリップボードには同時に12個までのデータを格納することができた。

しかし、一太郎Ver.5が発売された翌月の93年5月にWindows3.1が発売されたため、この一太郎Ver.5はWindows3.1と戦わなくてはならなかった。いや、正確に言えば、Windows3.1と戦ったのはJW2で、一太郎はMicrosoft Wordと戦ったというべきなのかもしれない。しかし、JW2は一太郎のための環境だ。主体はあくまで一太郎。対するワープロソフトは、Microsoft Wordだけではなかった。Windows対応のすべてのワープロソフトだった。その意味で、戦いは「一太郎」対「Windowsワープロ連合」だったのだ。

結果を書くと、一太郎は、ワールドワイドで展開するWindowsの敵ではなかった。Windows3.1は、「マルチメディア」という未来の輝きを持っていたからだ。Windows3.1は、マスコミからも、ユーザーからも、拍手を持って迎えられた。

●Windows版一太郎の発売

日本語Windows3.1が5月に発売され、翌6月にMicrosoft Word Ver.5 for Windowsが発売された。重量級のワープロソフトの日本語対応版だ。さらに、これまでとは比べものにならない多機能ワープロソフトが、ぞくぞく登場した。Lotus AmiProやWordPerfectだ。こうして、アプリケーションソフトの流れは一気にWindowsに向かう。

その年の12月に、一太郎Ver.5 for Windowsが発売される。これで一太郎は、Windowsワープロとして、WordやAmiProやWordPerfectと比較されるようになった。

Windows版の一太郎は、JW2版との互換性を武器に、JW2版と共通のフォントを同梱していた。括弧から斜め罫線までOK(このときWordは罫線機能を持っていなかった)、文字数×行数でページ設定ができること(Word5.0はパワーアップキットというツールでこれを可能にしていた)、画面を開いて、どの位置からでも書き始めることができるフリーカーソル(Wordは、Enterキーを押して改行を挿入して、開始位置まで移動する必要があった)など、少なくともMicrosoft Wordよりは格段に優れていた(AmiProやWordPerfectは部分的に一太郎よりも優れていた)。

しかし、ここで機能比較以上に一太郎を支えたのはATOK8だった。13万語という圧倒的な辞書をもち、AI変換機能を搭載し、変換効率は大幅に高かった。このATOK8が他のWindows上のアプリケーションでも利用できるようになるのだから、Windows版一太郎の売れ行きは好調だった。

ジャストシステムは、Windows版の一太郎に続いて、Macintosh、OS/2対応版を順次リリースし、拡大路線を敷いた。1994年6月、一太郎シリーズ累計出荷本数200万本を達成した。
いまにして思えば、ここが一太郎のひとつの頂点と言えるかもしれない。

● 「日本語ワープロソフトMicrosoft Word」対「一太郎」

1994年9月、Microsoft WordはバージョンアップしてVer.6となった。そして、一太郎に対するMicrosoft Wordの追撃が始まった。Word Ver.6は、日本向けの付加機能と徹底した横並び比較対策を施していた。

それに対して、翌95年1月、一太郎Ver.6 for Windowsが発売された。JW版に先行しての発売ということだったが、結局JW版の一太郎Ver.6は発売されることはなかった(一太郎Ver.6と同時にATOK9が発売されていた。このATOK9はJW版も発売されたが、一代前の一太郎Ver.5と組み合わせて販売された)。こうして戦いの場は完全にWindowsに移った。

■ 一太郎Ver.6
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■ Windows版として登場した一太郎Ver.6は、すぐにVer.6.3になりJustNetとの連携を強化し、日本におけるインターネットの普及に大きく貢献する。この製品で一太郎シリーズ累計出荷500万本を達成する。
Image8.png

 

一太郎Ver.6の発売にあたって、ジャストシステムが取った戦略は、徹底した多機能化である。自動入力補正機能JAC、文書校正支援機能「修太」、フォントエフェクトツール、数式作成ツール、同じ文書を見る人によって変化させる「ビュー機能」、検索エンジンJIAS、全ファイル高速検索機能QTS、マクロ言語PlayRiteなどを付け加えた。もちろん、Ver.4からの「ランク」や「ビジョン」といった機能も引き継いでいた。ユーザーが望む望まないにかかわらず、さまざまな機能を、これでもかというほど搭載して一太郎Ver.6はリリースされた。

こうして一太郎は、Wordとの機能競争のもとに、ユーザーから離れた機能拡大路線へと踏み出していくのである。

● Windows95への対応

Windows95の英語版が米国で発売された1995年8月に、ジャストシステムは一太郎Ver.6.3を発売した。キーワードは「一太郎から世界へ」だ。提供開始予定の通信サービスJustNetとの連携をはかるために、一太郎にWebブラウザ「JustView」やメールソフト「JustMail」を搭載した商品だ。

この一太郎Ver.6.3の発売は、日本語Windows95の発売を間近にひかえて、延命策ともとれる暴挙であった。たしかに一太郎Ver.6.3は、日本におけるインターナットの普及に貢献したしたといって良いだろう。しかし、このVer.6.3は、ワープロソフト本来の機能とは無関係なバージョンアップだった。このとき、「ワープロソフトの一太郎はどこにいってしまったのか……」という印象を持ったのは筆者だけではないだろう。

一方のMicrosoft Wordは、1995年11月23日の日本語版Windows95と同時にWord95という名前で登場した(Excel95などと共にMicrosoft Office95として同時発売された)。また、LotusのワープロソフトWordProは、1ヶ月後の12月にWindows95に対応した。

それに対して一太郎は、Ver.6.3のままだった。付属のブラウザやメールソフトをWindows95に対応させるツールを急遽無料配布しただけだった。

この時点で、一太郎は負けていた。これまでの機能拡大路線で肥大化した一太郎は、Windows95への対応に手間取ったのだろう。Windows95完全対応の一太郎Ver.7は、翌96年2月の発売がアナウンスされていた。しかし、結局9月まで待たなくてはならなかった。発売時期は、2月→3月→7月→9月と3度にわたって延期されたのだ。この間に、Wordとの差は、徐々に、そして決定的に開いてしまった。

==続く== 

 

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